私たちも自治体も“平和外交”ができる
      ~米中関係にからめ取られた日米同盟の呪縛から逃れるために~
                                                    
 若者の投票率が低いのは、若者が「何をしても変わらない」と社会を変えることを諦めているからと言われます。私も一時は安倍退陣に期待を持ったもののあとの菅政権―岸田政権は安倍政権とまったく変わらず、安倍政権が敷いたレールの上に立って原発推進や大軍拡などとんでもないことを実現させているので無力感さえ感じます。しかも、岸田政権は国民に説明をせず、アメリカ政府の言いなり。国民の生活や福祉をないがしろにし、災害復旧も放りなげて所得格差は広がるばかり。かつて「ジャパンアズナンバーワン」と誇示した日本の国際競争力は弱体化。このような中で若者が将来に期待を持てず、自暴自棄になる気持ちは十分に理解できます。
 しかし、戦争や気候変動、貧困など地球規模の問題はたくさんあります。私たちは政府やマスコミの情報操作に流されて社会の閉塞状態を「仕方がない」と受け入れがちですが、国際情勢を冷静にみつめ、本来あるべき姿を考えれば、いま何をするべきか見えてくるのではないでしょうか。

平和外交と対話によって相互の信頼関係を築く玉城知事の訪中

 玉城デニー沖縄県知事は今年7月3日に日本国際貿易促進協会の訪中団の一員として中国を訪問し、5日には河野洋平元衆院議長らとともに北京の人民大会堂で中国の李強首相と会談しました。これは沖縄県が掲げる平和構築と相互発展のための「地域外交」の一環で、知事は「確かな手応えがあった」と述べました。沖縄県は米軍基地の問題でアメリカ政府をはじめアメリカの政界や社会に対しても沖縄県の立場を説明し、基地負担軽減を訴えてきました。外交と軍事は国の専管事項と言われますが、民主主義社会では外交や軍事を含め国の方向性を決めるのは国民の権利です。民間や自治体が経済や文化面などで交流を深める外交は私たちの平和を守るためにも大変重要なことです。
 今回の知事訪中に関して、残念ながら日本のマスコミ報道からは平和外交の視点は感じませんでした。知事訪中に先立って中国の習主席が述べた「琉球と中国の交流」に関する発言を「中国政府の日本に対する揺さぶり」と捉え、知事訪中はそれに利用されるという疑問さえありました。Webには習主席の発言を「台湾有事に日本が介入すれば沖縄を取るという『恫喝』」「黒を白と言う国とは仲良くする必要無し」とするコメントもありました。これらの発言は何回も流されるニュースや解説を根拠にしています。たとえば昼休みにテレビ朝日「大下容子ワイド! スクランブル」を観るといつも中国や北朝鮮、韓国、ロシア・ウクライナの話題です。それが視聴者に“日本に対する脅威”と“外国不信”を植え付けます。玉城知事および沖縄県民の平和を求める立場を理解せず、世界をすべて対立構造(専制国家対民主国家など)で理解させようとするのです。
  私たちは政府の言論統制やマスコミの世論操作に洗脳されないように気をつけなければなりません。平和な社会を作るためにはどこの国とも「相互によく知り、認め合う」ことが大事で、国民同士が敬意を持ち、根気よく信頼を醸成する努力が必要です。平和な国際社会を維持するためには性悪説ではなく、性善説に立つべきだと考えます。そうすれば玉城知事が『環球時報』のインタビューで語った「平和外交と対話を通じて、緊張した情勢を緩和し、相互の信頼関係を築くことは、非常に重要なことだ」という姿勢を理解し、支持することができるでしょう。「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」はメルマガで「国同士の関係が冷え込む中で、中国との歴史・文化の関係が深い沖縄県知事が中国要人とエールを交換した意義は大きい」と知事訪中を高く評価しています。

アメリカの国益のために利用され続ける日本

 国際情勢を考えるとき、私たちはどのような視点を持てばいいでしょうか。日本の国会やメディアで語られる国際情勢はほとんどが主要先進国のパワーゲームに関係し、日米の同盟関係が日本の国益になるという前提に立っています。はたしてそうでしょうか。
 かつて日本の繊維製品や自動車、半導体、太陽パネルなどは世界を席巻するほどの技術力・生産力を持っていました。いまはどうでしょう。日米の貿易摩擦の歴史をひもといてみてください。アメリカは自国の産品を押しつけ、日本の輸出を抑える強引な“貿易戦争”をしかけました。その結果、日本の産業は衰退し、食糧自給力の低下を招きました。いま日本はアメリカの軍需産業のために兵器を爆買いさせられています。
 “世界の警察国家”を謳ったアメリカは東西冷戦後に国力を落としましたが情報産業を中心とした産業構造の転換によって回復、アメリカの後を追う中国と経済・軍事・政治の面で“世界覇権競争”を展開しています。その中で今後も日米同盟が続くならば、日本はアメリカの国力を支え、アメリカを守るために利用されるだけでしょう。日米同盟に固執する限りアメリカの属国としての運命しかないように思います。

中国を超える軍事力で戦争を回避することは可能か

 アメリカと台湾の関係を論じたアメリカにおける研究を見ると「米国が台湾防衛に乗り出すには、この地域の同盟国、とりわけ日本、オーストラリア、フィリピンからの支援が必要である」と書いてあります。しかし日本の関与は不確実で、それは「自衛以外のための武力行使を長年にわたって制限してきた日本の憲法によるところが大きい」ためとしていますが、「日本は、台湾防衛にとって最も重要な変数である」と言い、台湾防衛のためには日本に駐留する5万4千人の米軍部隊が日本国内から活動できる必要があるとしています。沖縄に本部を置く米国唯一の前方展開海兵遠征部隊やインド太平洋地域では米国最大の軍事施設である嘉手納基地の重要性も指摘。沖縄には戦闘機が無給油で台湾上空を飛行できる米空軍基地が2つあり「日本の基地を使わなければ、アメリカの戦闘機は効果的に戦闘に参加することができない」とも言います。そして、日米両国は情報・監視・偵察(ISR)能力、特に宇宙ベースの資産の統合を図るべきとし、日本が統合作戦本部の設置を決定したことを高く評価しています。
 一方「米国は当面は抑止力の強化に重点を置くべきである」とも言っています。習近平主席に「攻撃は成功せず、コストが潜在的な利益をはるかに上回る」と確信させ、同時にワシントンが「台湾を中国から永久に切り離そうとは考えていない」と安心させることの双方に重点を置くべきだというのです。すなわち、軍事力による威嚇で戦争を抑止し、一方で中国の主張にも一部理解を示すというやり方です。それは「台湾海峡で紛争が起これば、サプライチェーンが破壊され、生産ラインは停止を余儀なくされ、株式市場は急落し、世界の海運を脅かすことによって、世界経済は深刻な恐慌に陥るだろう」という事態を避けたいからです。しかし、経済恐慌を避けたいのは本心だとしても軍事力で戦争を抑えられると本気で思っているのでしょうか。
 アメリカは中国に強力な軍事力を見せつけるために琉球弧(南西諸島)を軍事基地と軍事訓練の島にすることを前提にしています。この研究は「日本の南西諸島で部隊をローテーションさせ、弾薬や重要物資の備蓄を行うべき」「日本国内の民間飛行場から作戦訓練を行うべき」などと提言しており、琉球弧を中心とする日本国内に犠牲を押しつけなければ戦争は避けられないという理屈になっています。

独立国として自立した外交を持たない日本政府

 当然ながら中国を封じ込めるために琉球弧を軍事要塞化し、住民の自治と平和な生活を奪うことは許されません。「軍事抑止力論」は不信と欲望から成り立っているのでいつまで経っても真の平和は訪れず、戦争は偶発的に勃発する恐れがあります。本当の平和を実現するためにはアメリカの言いなりではなく、自立した政策を持つべきなのです。
 アメリカが頼りにする同盟国・フィリピンはかつて米軍基地を追い出しました。今の大統領は米軍基地を受け入れていますが、フィリピンの外務長官は、米国が台湾防衛のための作戦に使用する武器を米軍基地に備蓄することを認めず、米軍がこれらの基地で給油、修理、再装填することを認めないことを明らかにしています。一方、日本政府は沖縄県民の要望に沿った交渉をアメリカ政府としようともしません。日米地位協定の改定にも消極的で、米軍機は東京都心を含め日本国中を我が物顔で飛んでいます。これでは独立国とは言えません。せめてフィリピンを見習うべきです。

日米同盟の呪縛から抜け出てアジア・太平洋諸国の立場で外交を

 私たちは国際情勢を考えるとき、日本政府と同じように日米同盟が動かないものとして考えていないでしょうか。冷めた目で見ると、米中関係でアメリカ側にがっしりと組み込まれた日本の姿はあまりにも窮屈で滑稽です。世界はアメリカの思惑で動いているわけではありません。たとえばロシアのウクライナ侵攻にどう対処するかで「グローバルサウス(G77などを指す)」の動向が注目されていますが、これらの新興国や発展途上国は今後の国際情勢を占う上で重要な役割を持っています。日本政府はアメリカやEUの手先となってこれらの国々にウクライナ支持を働きかけていますが、第二次世界大戦の反省から平和憲法を持つ日本のあるべき立場は、日米同盟の呪縛から抜け出てグローバルサウスの国々を含む国際社会で停戦と平和の手段を模索することであるはずです。
 私は、日本が国際社会で取るべき道の一つとして、アジア・太平洋地域諸国の一員として太平洋島嶼国に呼びかけ、核兵器禁止条約批准国を増やし、それを足がかりにこの地域の軍縮を進め、非武装を目指す牽引役を果たすことを提案します。
 2020年10月発効の核兵器禁止条約はすでにパラオ、クック諸島、ニュージーランド、ニウエ、東ティモール、ツバル、ベトナムなどが批准しており、日本も早く署名・批准するべきです。アジア・太平洋地域の国としての立場から日本の平和戦略を再構築し、世界に示すことは日本の若者にも新しい希望を与えるはずです。

普天間基地の移転候補地となったグアムとテニアン、米海兵隊の移転も予定

 “太平洋戦争”という名の下に激戦が繰り広げられた太平洋の島々はいまは多くが独立し、島嶼国家となっています。ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国はアメリカと自由連合協定を結んでおり、独立国ではない島としてアメリカ自治領の北マリアナ諸島(サイパン島やテニアン島、ロタ島など)、アメリカ準州のグアム島、アメリカの州の一つであるハワイ諸島などがあります。マーシャルやグアム、ハワイには米軍基地があり、軍事的に複雑な国が多いですが、共通点として「海面上昇が進めば島が沈み、国がなくなる」という切実な危機感があり、国際会議で必死に気候変動対策を訴えています。
 グアムでは沖縄の米海兵隊約4千人(当初予定約8千人)が2024年以降に移転する基地「キャンプ・ブラズ」の発足式が今年1月にありました。ここの隊舎建設や敷地造成などの費用は日本政府負担です。北マリアナ諸島には米軍基地はありませんが、テニアン島の3分の2を占める中北部は米軍管理地になっており、沖縄の米海兵隊のグアム移転に伴って米軍の軍事演習地にすることが決まっています。
 民主党政権時代の2010年、普天間基地移転先としてグアム、テニアンが候補地になったことがありました。そのとき、グアム知事は受け入れに反対し、北マリアナ諸島連邦の知事は受け入れを表明、上院議会も誘致を決議しました。実現はしませんでしたが、テニアンの受け入れ意向は地元の貧困問題が背景にあるとも言われました。私は当時、国内であれ海外であれ島に基地を押しつけることに拒否感を覚えましたが、原発や軍事基地などの巨大迷惑施設を地方に押しつける社会構造はどこでも同じような要因があります。過去の戦争体験や現在のアメリカとの関係など太平洋の島々と沖縄は共通する問題を多く抱えています。日本政府に先行して民間や自治体の外交を重ねることも重要だと思います。そのとき、沖縄の平和に対するノウハウの蓄積は大きな力になるでしょう。沖縄県のアメリカや中国との外交実績も生きてきます。

気候変動対策、軍縮など人類共通の課題に取り組む外交ビジョンを

 今の世界は戦争や経済競争、覇権争いなどによって地球の資源・資産を食い潰しています。私は、日本がアジア・太平洋諸国の一員という立場で平和憲法を高々と掲げ、人類の生存と平和、地球環境のために必死に努力することが現在の日本が抱えるさまざまな問題を克服する近道だと思います。私たちが腹をくくって真剣に取り組めば「何をしても変わらない」という閉塞状況から脱出し、明るい未来のために歩き出すことができると思うのです。

軍事大国・戦争へと向かう“国家意思”にメディアは抗わないのか
          ―「自衛隊に島を奪われる」と危惧する与那国島に目を向けよう―

 「岸田首相は何十年も続く平和主義を放棄し、自国を真の軍事大国にしたいと望んでいる」という米『タイム』誌表紙の説明は本来、日本のメディアが指摘するべき内容だった。ジャーナリズムを標榜するならば安倍政権時代からの改憲・軍拡路線に対して警鐘を鳴らし、反戦・非戦キャンペーンを展開するべきだった日本のメディアは、日本政府の抗議で『タイム』誌が表現を変えると「外国から変な目で見られなくてよかった」と胸をなで下ろしたようだった。いったい、安保法制や安保3文書改定、防衛費倍増、兵器の爆買い・開発・輸出、琉球弧(南西諸島)へのミサイル配備などをどう考えているのだろうか。この状態は国会や国内世論とともに「軍事大国化は許さない」「戦争をするな」と大騒ぎしてもしすぎにはならないほどだから『タイム』誌も書いたのである。解散・総選挙が近いとささやかれているが、選挙や直接行動で明確な国民の意思が示されなければ国民無視の“国家意思”によって国民の命や生活は踏み潰されてしまうだろう。メディアも国民も正念場に立っている。

沖縄の軍事負担は増大、琉球弧は“軍事要塞列島”に

 今年の5月15日で沖縄は日本復帰51年を迎えたが、この間沖縄の米軍専用施設は復帰時より3割以上減ったもののいまなお全国の在日米軍専用施設面積の約7割が沖縄に集中し、逆に自衛隊専用施設は復帰時の4.6倍に増えた。合計した沖縄の軍事負担は2019年以降増加を続け、軽減どころか増加しているのが実態だ。自衛隊基地は与那国島、石垣島、宮古島に新設され、沖縄島などでも拡大が続いている。鹿児島県では奄美大島に自衛隊基地ができ、馬毛島では米軍のFCLP(陸上空母離着陸訓練)も行う自衛隊基地の建設が始まった。沖縄は復帰後も変わらぬ「基地の島」であり、沖縄を含む琉球弧(南西諸島)全体が軍事要塞化されるという「軍事要塞列島」まっただ中にある。

電子戦部隊・空港拡張・港湾整備・ミサイル配置と軍備増強が進む与那国島

 先島諸島では、2016年3月28日に与那国島、2019年3月26日に宮古島、そして今年の3月16日に石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が開設され、3月18日には石垣島にミサイルが運び込まれた。
 その与那国島ではいま、住民の間に大きな動揺が広がっている。当初は「自衛隊は沿岸監視部隊だけ」「米軍が来ることはない」と聞かされていたのに目の前で急速に軍備拡張が進んでいるからだ。昨年4月には航空自衛隊第53警戒隊与那国分遣班が配備され、11月の日米共同統合演習「キーンソード」では与那国島にアメリカの海兵隊員約40人が乗り込んで演習が行われ、重火器を備えた自衛隊の機動戦闘車が住民の目の前で公道を走行した。その物々しい光景は“静かで平和な島”の住民を戸惑わせるのに十分だった。12月に「安保3文書」が閣議決定され、2023年度予算案には与那国駐屯地への電子戦部隊配備に加えて地対空誘導弾(ミサイル)部隊を置くための土地(約18ha)取得などが盛り込まれた。このままでは与那国島、石垣島、宮古島、沖縄島、奄美大島と琉球弧沿いにずらっと大陸に向いたミサイルが並ぶだろう。

 防衛省は沖縄復帰の日に当たる今年の5月15日、与那国島で「与那国駐屯地への地対空誘導弾部隊配備に関する住民説明会」を開催した。そこには約150人の町民が出席。防衛省は、空からの攻撃を防ぐため中距離地対空誘導弾部隊を配備するとし、配備するミサイルは「他国を攻撃するものではない」と説明した。すなわち「敵基地攻撃能力(反撃能力)」はないというのだ。しかし、これは誰も信用してはいない。今年1月、アメリカ政府は計画していた地上発射型中距離ミサイルの在日米軍への配備を見送るという報道が流れたが、その理由は日本が敵基地攻撃能力を持つ長射程ミサイルの保有を決めたからだとしており、日本政府が琉球弧に長射程ミサイルを並べようとしているのは明らかだ。
 与那国町の糸数健一町長は台湾有事を見据え、大型旅客機・大型船舶による町民の島外避難のために与那国空港滑走路の500m延伸と南部の比川集落への港湾新設を政府に要望したという。これは自衛隊のF35戦闘機の離着陸や自衛隊の護衛艦の接岸などを可能とする軍民共用施設の整備を意味する。沿岸監視だけのはずだった与那国島の軍事施設は、地対空ミサイル部隊基地、与那国空港の軍事的拡張、比川地区への港湾計画(軍港)と際限なく増殖しようとしている。地元ではどこで何が決まったかわからないまま「防衛は国の専管事項」「機密は公開できない」「まだ決定ではない」という説明だけで、軍拡という現実だけが急速に進んでいる。一方、ほとんどの国民は“前線”の緊迫した実態を知らないか知ろうとしないままでいる。

武力攻撃事態で「沖縄本島は屋内避難、先島諸島は九州に避難」

 今年の3月17日、沖縄県は武力攻撃事態の際に住民を避難させるための「国民保護図上訓練」を行った。国や与那国町、石垣市、宮古島市なども参加して先島諸島などから沖縄県外に避難する手順を検討したが、その後、沖縄本島は屋内避難、先島諸島の約12万人は九州に避難させる方針が決められた。
 与那国島では昨年11月30日に「国民保護法に基づく弾道ミサイル発射を想定した住民避難訓練」が町民22人の参加で実施された。サイレンが鳴ると走って公民館に逃げ込み、頭を両手で抱えてかがみ込むという訓練だったが、訓練の意義に疑問を持つ人も多く、参加者が激減したようだ。また、与那国町は台湾有事を想定して事前に島外避難する町民に対して避難のための交通費や生活資金などを支給する基金の設置を決めている。
 2023年度防衛予算には自衛隊施設の司令部を地下化する費用が含まれており、沖縄島の陸上自衛隊那覇駐屯地、航空自衛隊那覇基地、那覇病院など全国6ヶ所が対象になっているが、民間人が逃げ込む場所はない。与那国町は政府に避難シェルターの設置を求めており、自民党の「シェルター(堅固な避難施設)議員連盟」は5月22日、与那国町、石垣市、竹富町を訪れ、住民が避難できるシェルター設置に対する財政支援を政府に促すと約束した。
 現地では、“脅威”が煽られ、“不安”が増幅させられることが日常的に続いている。 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の軍事偵察衛星発射に備えるとして宮古島・石垣島・与那国島に展開したPAC3(地対空誘導弾パトリオット)部隊もその機能を果たしている。

「国にだまされた」――誘致派の元町長・元議長がミサイル配備に反対を表明

 これらの動きに対して、とうとう我慢できなくなった自衛隊基地誘致当時の町長や町議会議長がミサイル配備反対の声を上げた。
 外間守吉・元町長は「ミサイル部隊の誘致だけはどうしても阻止しなければならない」と断言。日本はアジア外交政策を持っていないことを危惧し「私たち保守のグループでもミサイル配備阻止に向け、運動を起こしていこうと話しあっている」と言う。また、前西原武三・元議長も「ミサイル配備は絶対認めてはならない」とし、その理由を「軍事の島になってしまい、島民が安心して生活する環境は失われるかもしれないという強い不安がある」と語る。「国にだまされたような気がして、誘致に賛成したのは正しかったのかと自問自答している」という葛藤も吐露している。

国は与那国島を「全島無人化・全島要塞化」しようとしているのではないか

 また、山田和幸さんらミサイル配備に反対する与那国町の住民3人は5月10日、沖縄県・沖縄県議会への要請文、沖縄防衛局への質問状を提出。国に対してはミサイル攻撃の際の島の安全確保、沖縄県議会からの「外交による平和構築を政府に求める意見書」などについての見解を求めた。
 同行した「ノーモア沖縄戦 命(ぬち)どぅ宝の会」発起人の新垣邦雄さんによると、3人は与那国島が“人の住まない島、住めない島”になるのではないかという切実な思いで直訴に及んだと言う。山田さんらは「県が全島避難計画、町も全島避難要領を出し、防衛省は大規模な基地建設を計画している。住民を追い出し全島要塞化する狙いではないか」と危惧しているのだ。国は与那国島を、第二次世界大戦“玉砕”の島・硫黄島のような「住民がいない自衛隊基地の島」にしようとしているのではないか。そうでないなら、国はなぜ軍拡が必要か、山田さんら地元住民が納得するまで説明しなければならない。

自衛隊誘致につぶされた「島の自立へのビジョン」

 実は、与那国島は自衛隊誘致がささやかれ始める2007年頃までは自立・自治・共生を基本理念に据えた「与那国・自立へのビジョン」「与那国自立・自治宣言」を掲げ、姉妹都市である台湾・花蓮市との交流を足がかりに国が進めている構造改革特区を活用して“国境交流を通じた地域活性化と人づくり”を進めようとしていた。これが全国的に話題を呼び、実現するかと思われたものの2度にわたる特区申請は2006年、2007年とも国に却下され、島の振興策は自衛隊誘致へと流れが変わった。2007年6月には米国のケビン・メア在沖縄総領事と米海軍掃海艇が地元の反対を押し切って与那国島に入港し、翌年1月には島に防衛協会が設立された。日本政府による自衛隊受け入れの働きかけや締め付けは相当強かったようだ。
 自立へのビジョンプロジェクトの初代事務局長や2007年4月に開設した与那国町の花蓮市連絡事務所初代所長を務めた田里千代基さんは「もしも特区申請が通っていたら、自衛隊誘致は潰せたと思う」と断言。今でも集会などで「自立ビジョンはあきらめていない」と訴えている。
 与那国・自立へのビジョンは自民党の有力者も評価し、実現への協力を表明したという。それが“国策”の自衛隊基地建設によってひっくり返された。人口減少対策と経済振興をねらって沿岸警備隊を誘致したら中国に向けたミサイルまでやってくるという。“国境の島”として交易・交流を考えていた安全・安心の島がまったく真逆の、軍事部隊が対峙する危険極まりない島になりそうなのである。
 
国家権力に戦争をさせないのがメディアの責務

 そこで、冒頭の問いに戻るが、日本のメディアはこのような与那国島の現実に目を伏せたままでいいのか、ということなのだ。この経過を見るに、ほとんどが日本政府の政策や対応が問題であり、「国際情勢」や「地政学的位置」を理由に国境に接する与那国島に“迷惑施設”である軍事施設と部隊を押しつけている。まずは国の施策や国民全体の姿勢を問うべきであろう。
 日本のメディアは、岸田政権が「平和主義を放棄し、自国を真の軍事大国にし」、戦争への道を突き進んでいることを『タイム』誌以上に叫ばなければならない。その根拠は与那国島の例一つでも十分であろう。メディアは社運を賭しても国家権力に戦争をさせてはならないのだ。

「『侵略』上映委員会」会報2023年3月1日号に記事が掲載されました。
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      「安保3文書」が琉球弧で進める“戦争準備”
-島々を戦場にするな!沖縄の平和発信を受け止めよう-
                                                                
 日本政府は昨年12月、安保関連3文書「国家安全保障戦略(NSS)」「国家防衛戦略(旧「防衛計画の大綱」)」「防衛力整備計画(旧「中期防衛力整備計画」)」を改定し、閣議決定した。
 メディアは「政策大転換」「戦後安保を転換」などと報道し、岸田文雄首相も記者会見で「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と説明した。同時に岸田首相は「憲法の範囲内であり、非核三原則、専守防衛の堅持、平和国家としての歩みは今後とも不変だ」と強調した。“転換”と“不変”というまったく逆の言葉を一つの政策に使ったのだ。これは明らかに矛盾する。どちらかがウソということになるが、誰でもわかるように後者がウソである。政府が本気で「専守防衛を堅持」「平和国家として歩む」という政策を推し進める姿勢は国会でも報道でも見たことも聞いたこともない。岸田首相は「ウソも言い続ければ真実になる」という安倍晋三元首相の姿勢を踏襲しているのだろう。
 実態を見ると、岸田自公政権は明らかに戦後日本政府が掲げてきた“専守防衛”の旗をかなぐり捨て、平和憲法を踏みにじって敵基地攻撃能力(「反撃能力」)を保有し、GDP比1%程度とした防衛費(軍事費)を2027年度にはGDP比2%に増やして世界第3位の軍事大国になろうとしている。沖縄の日本復帰の際に当時の佐藤栄作首相はアメリカとの間で「有事の際は沖縄に核兵器を持ち込むことを認める」という核密約を交わしていた。その証拠となる文書まで明らかになっているのに日本政府はいまだに認めないが、台湾有事で米軍が軍事行動を起こすときには密約に則って沖縄に核兵器が持ち込まれるだろう。日本政府の“ウソと隠蔽”の防衛政策は日本列島を戦場とし、日本国民を奈落の底に落とそうとしているように見える。

「琉球弧を戦場にするな」-要塞化の現地から悲痛な訴え相次ぐ

「戦争する国は美しい大義名分を掲げるが、戦争には悪しかない。爆弾で人間の命を奪うだけである。戦争は始まってしまったら手がつけられない。犠牲になるのは一般の人々だ。大勢の人の命が奪われ、双方の国に大きな被害を出す。戦争はしてはならない。命を何よりも大切にすること、平和が一番大切だという沖縄戦の教訓を守ってもらいたい。」
「今、日本政府がすべきことは、侵略戦争への反省と教訓を踏まえ、非戦の日本国憲法を前面に、近隣の国々や地域と直接対話し、外交で平和を築く努力である。」

 これは沖縄戦に動員された沖縄県内21校の旧制師範学校・中等学校の元学徒らでつくる「元全学徒の会」が今年の1月12日に出した「沖縄を戦場にすることに断固反対する声明」の一部である。
 さらに2月6日には「第32軍司令部壕の保存・公開を求める会」が、「いかなる形の戦争であれ、戦争は悪であり、勝者も敗者もない。我々は戦争への道を歩むことに対しては断乎として反対する」と戦争反対の声明を発表した。このように沖縄島をはじめ琉球弧(南西諸島)からは「戦争反対」「琉球弧を戦場にするな」という悲痛な声が次々に聞こえてくる。これは日本政府が際限のない軍拡政策を進め、琉球弧では住民の目の前で自衛隊基地が作られ、日米共同の軍事訓練が日常的に行われるようになったからだ。先島諸島や沖縄諸島が戦場になったとき日本列島全体に戦火が広がらないという保証はどこにもない。米軍基地や自衛隊基地は全国にあるからだ。私たちは琉球弧からの「国家間の対立は外交によって解決すべきであって、決して戦争の引き金となってはいけない」という声を真正面に受け止め、「同じ志を持つ県内外の多くの人々と連帯する」という呼びかけに主体的な活動で応えるべきだ。

軍事要塞化が急ピッチで進む琉球弧のいま

 日本政府は琉球弧の軍事要塞化を強引かつ性急に進めている。

[与那国島]与那国島では2016年3月に島を二分する議論の末、自衛隊与那国駐屯地が開設され、陸上自衛隊沿岸監視部隊が配備されたが、2022年には航空自衛隊移動警戒隊が追加配備され、2023年度には陸自電子戦部隊が、さらに2026年度までに空自警戒監視部隊や陸自地対空誘導弾(ミサイル)部隊が配備されるといわれる。軍民共用のため与那国空港滑走路の2500m延伸や港湾の整備・新設が計画され、2023年度予算案には基地拡張のための用地取得費用も計上された。
 昨年11月上旬からの日米共同統合演習「キーン・ソード23」では陸上自衛隊の戦闘車両を載せた輸送機が与那国空港に降り立ち、島の公道を初めて重火器を備えた機動戦闘車が走行した。駐屯地には米国海兵隊員約40人が陸自ヘリコプターで降り立ち、指揮所を設営する演習を行った。

 また11月30日には、弾道ミサイル攻撃を受けることを想定した国民保護法に基づく住民避難訓練が内閣官房・消防庁・沖縄県・与那国町の合同主催で実施され、町民22人が参加した。自衛隊基地建設が決まったときには米軍の訓練はないとされ、ミサイル基地も考えられていなかったのに戦争が間近に感じられ、戦闘車を目の前にした島民の間に衝撃が走ったという。町議会では有事の際、島外避難者への生活支援に充てるなどの基金を設置する条例が制定された。

[石垣島]石垣島では急ピッチで自衛隊基地建設が進んでおり、今年2月から物資の搬入を始め、3月初めには12式地対艦ミサイルの発射機を含む車両約100台などを運び込み、中旬にはミサイルを含む弾薬を搬入するといわれている。防衛省は3月16日に陸自自衛隊を発足させ、4月に駐屯地開設の記念式典を行う計画で、地元新聞には駐屯地の食堂従業員募集の広告も掲載された。

 日本政府が閣議決定した安保関連3文書では、敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つ長射程ミサイルの配備が琉球弧で実施されるとあるが、石垣市の中山義隆市長は長射程ミサイルの石垣島への配備について「基本的には容認」とし、自衛隊・米軍が民間の空港や港湾を平時から使用することにも「異を唱えず」、自衛隊と米軍との共同訓練も容認する姿勢を示している。しかし、中山市長はかつては「他国の国土を攻撃するミサイル基地なら私が反対する」「実際に米軍が上陸して訓練を行うことには反対する」などと述べたことからその変貌に批判が浴びせられている。石垣市議会は昨年12月、「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力をもつ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない」と訴える意見書を可決し、今年1月に日本政府に提出した。中山市長は慎重な対応を求める声を無視して1月末に尖閣諸島周辺海域で2回目の海洋調査を行うなど危機を煽り基地建設を進める強硬姿勢を崩していない。

[宮古島]2019年3月26日に宮古警備隊を配して陸上自衛隊宮古島駐屯地が開庁され、当初から地対艦ミサイル・地対空ミサイル部隊の配備が発表されていたが、2020年3月26日に長崎県の竹松駐屯地から高射特科群本部および1個中隊が移駐するとともに地対艦ミサイル中隊が新しく編成された。2023年度予算には駐屯地施設整備に約100億円が計上され、2024年以降の完成を目指して保良訓練場の覆道射場や火薬庫などが新設される。なお保良地区では2021年4月までに弾薬庫など一部施設の供用が開始されたが、弾薬類の一部搬入および本格的なミサイル搬入の際には住民の激しい抵抗運動が展開された。

[沖縄島]1月21日に沖縄県と国の共催により那覇市で106人の市民が参加して、飛来する弾道ミサイルを避けて住民が地下駐車場に避難する国民保護訓練と那覇市役所での初動対処訓練が行われた。
 さらに3月中旬には中国の侵攻を想定し、沖縄の離島住民の避難方法を検証する初の大規模な図上訓練が計画されており、与那国町・石垣市・宮古島市・多良間村・竹富町の5市町村が参加する。訓練では観光客を含めた約12万人が九州に避難することを想定している。
 前者の国民保護訓練に対しては、突然の発表にも拘わらず訓練に反対する市民が5日前から市役所前に集まり「危機を煽るミサイル避難訓練は即刻中止を」と訴えた。
 高射特科連隊中隊などが駐屯する陸上自衛隊勝連分屯地(うるま市)には2023年度中に「第7地対艦ミサイル連隊(仮称)」の本部を新設し、指揮下にミサイル中隊を配備する計画がある。これに対し、「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会」はミサイル配備に反対する運動を展開している。また、辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議は3月中旬まで「辺野古新基地建設の断念を求める国会請願署名活動」を行っており、2月12日には「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクトの第一回沖縄・台湾対話シンポジウムが開催された。2月26日には戦争に反対する全県組織の立ち上げをめざして、<争うよりも愛しなさい「島々を戦場にするな! 沖縄を平和発信の場に!」 2・26緊急集会>が開かれる。

[奄美大島]奄美駐屯地・瀬戸内駐屯地は宮古島駐屯地と同日に開庁したが、警備部隊、中距離地対空誘導ミサイル(中SAM)運用部隊(奄美駐屯地)、地対艦誘導ミサイル(SSM)運用部隊(瀬戸内駐屯地)が配備されている。

[馬毛島]大きな山場を迎えているのが馬毛島(鹿児島県西之表市)である。米軍の空母艦載機着艦訓練(FCLP)を行い、琉球弧に展開する自衛隊・米軍基地の大規模な兵站・後方支援拠点として日本政府は馬毛島に目を付け、周辺自治体や住民の反対を押し切って島を丸ごと買い上げ、今年1月12日、反対派市民が抗議集会を開く中、基地建設の本体工事に着手。8年かかる工事を4年で終わらせ、米軍の要請に応えて2025年度にはFCLP運用をするという。
 反対派だった西之表市長は態度を鮮明にしない実質容認に転じ、市議会は昨年9月に馬毛島小中学校跡地売却・馬毛島市道廃止・隊員宿舎用地(種子島内)売却の3議案を可決した。400人を超える市民からの差し止めを求める住民監査請求に対して西之表市は不受理とし、市民の意思は踏みにじられた。昨年12月から反対派市民の市長リコール運動が展開されたが、請求は不成立に終わっている。地元の種子島漁協は、3分の2以上の組合員の同意を得て防衛省が提示した総額22億円の漁業補償金受け入れを決めた。1日10~15隻の漁船が日給9万円で動員され、基地建設作業員の送迎や周辺海域の警戒に当たっている。

問われるメディアの姿勢 使命は「国家権力に戦争をさせないこと」

 琉球弧の軍備増強を際限なく進め、戦争の危機を煽る根拠になっているのが12月16日に日本政府が閣議で決めた「安保関連3文書」である。ここには那覇市に司令部がある陸上自衛隊第15旅団を「師団」に格上げすることや司令部の地下化、宮古島や石垣島に敵基地攻撃能力を持つミサイルを配備することなどが盛り込まれており、防衛費(軍事費)の増額分の多くは琉球弧につぎ込まれるだろう。
  閣議決定翌日の新聞各紙1面トップはすべて安保3文書のことだったが、沖縄県2紙と中央紙には大きな温度差があった。琉球新報の見出しは「安保大転換 沖縄最前線 首相『南西部隊を倍増』」で、沖縄タイムスを含め紙面には「沖縄 戦略拠点に」「命の危険増す県民」「南西地域の防衛強化」「有事に標的懸念」など沖縄が戦場になる危機感が現れた言葉が踊った。両社の社説は「[安保大変容:3文書閣議決定]選挙で信を問うべきだ」(沖縄タイムス)、「安保関連3文書決定 『戦争する国』を拒否する」(琉球新報)と主張した。
 それに比べて中央各紙は「戦後日本の安保 転換」(朝日新聞)、「反撃能力保有 閣議決定」(毎日新聞)、「専守防衛 形骸化」(東京新聞)、「『反撃能力』保有明記」(読売新聞)、「反撃能力保有 歴史的転換」(産経新聞)などサラッと報じた。社説では琉球弧の軍事要塞化には触れず、国の大転換なのに議論がなかったことを指摘する社が多かった。ただし読売・産経2紙は「国力を結集し防衛態勢強めよ」(読売新聞社説)のように安保3文書を評価し、「中国の脅威」を煽った。読売新聞の村尾新一政治部長は一面で、<反対派は、「周辺国との緊張をあおって軍拡競争を招く」と反撃能力などを批判する。だが、一方的に軍拡を進めて緊張をあおっているのは中朝露の方ではないか。あたかも日本が戦争に積極的に参加するかのように、「戦争の足音が聞こえる」といった論調が出始めたのも筋違いだ>と軍拡に反対する運動への批判までしている。
 メディアの大事な使命は権力のチェックであり、政府に戦争をさせないことだ。第二次世界大戦でメディアが戦争推進側に立ったことを反省するならいま、第一次安倍政権以降の政府が着々と準備してきた“戦争への道”がいまどの段階なのかチェックするのがメディアの役割だろう。米国の世界戦略の中にがんじがらめにされた日本政府を批判し、戦争準備が目の前に見える琉球弧の現実から「戦争反対」を体を張って叫ぶべきだ。メディアの存亡を決めるのは販売部数ではなく、「権力側に立つか、民衆側に立つか」なのだから。

防衛費増額は福祉・医療・教育などを削り、税外収入・増税で財政が破綻

 安保3文書によると、2023年度から5年間の防衛関連費(海保分を含む)をそれ以前の5年間の約1.6倍に当たる約43兆円とし、2027年度には現在の約2倍のGDP比2%程度にしたいとする。しかし、財源にあてがあるわけではなく、新型コロナ対策の予備費の残りや東日本大震災復興特別所得税を流用し、福祉・医療・教育などに使うべき予算を削った上に足りない分は増税で賄うという。2月3日には「防衛力強化資金」を新設し、本来なら借金返済に充てるべき税外収入(国有資産の売却や特別会計からの繰入など)を組み入れて防衛費の財源とする「財源確保法案」を閣議決定し、国会に提出した。誰が考えても無理なやり方で、なけなしの金を生産性のない兵器や基地、軍隊に流し込むということだ。
 「軍事費GDP2%以上」は米国・トランプ政権が2020年から同盟国に求めてきた内容で、これを受けて自民党が衆院選の公約に「防衛費2%」を掲げたものだ。下から積み上げた額ではないので軍事専門家からも自衛隊の身の丈に合わないと指摘されている。いま、自衛隊は24万7154人の定員に対して隊員は23万2509人(2021年3月末現在)しかおらず、1万4645人の欠員がある。これでは部隊の増強はできない。増額される防衛予算の大部分は装備費や研究開発費に回すしかないだろう。米国軍事産業界が喜びそうな話だ。そのミサイルや戦闘機、戦車、弾薬などは琉球弧に持ち込まれる。
 日本の2022年度予算に占める防衛費は6兆1744億円(補正予算を含む)。仮にGDPの2%を防衛費にすると約11兆3千億円となり、約5兆1千億円の増額となる。2021年の世界の軍事費ランキングで9位の日本は、GDP比2%になると米国、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国に躍り出る。しかし、それでも金額は遠く中国に及ばない。すなわち、福祉・医療・教育などがおろそかになり、税金が高くなって国民が窮乏生活を堪え忍び、国が膨大な借金を抱えて防衛費を増大させても中国に“脅し”をかけるほどの「抑止力」は持てないのだ。戦争になる前に日本の国は亡びるかもしれない。「欲しがりません 勝つまでは」の精神で戦争を回避し、平和な社会を作ることはできない。

「戦争をしない・させない」沖縄の心を受け止めて活動を

 日本政府の憲法を無視した防衛政策の大転換・大軍拡に対して平和外交を求める政策提言も相次いでいる。
 日米や東アジアの外交の多様化を図る民間シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」は昨年11月28日、「戦争を回避せよ」とする政策提言を発表した。
◎政策提言「戦争を回避せよ」 https://www.nd-initiative.org/research/11342/
 提言は「安全保障政策の目標は、何よりもまず、戦禍から国民を守ること」であり、「いかにして戦争を回避するかを活発に論じることこそ政治の使命」と主張する。日本政府は日米同盟と抑止力の強化を掲げるが、日本は同盟国から見捨てられるか、同盟国の戦争に巻き込まれるかという「同盟のジレンマ」に直面。台湾有事に際しては、日本が米国に加担すれば中国との戦争に巻き込まれ、中立の姿勢をとれば日米同盟は崩壊するということだ。提言は、日本独自の外交戦略が必要で、例えば、米国に対しては、米軍の日本からの直接出撃が事前協議で必ずしも「YES」ではないことを伝えて過度の対立姿勢をいさめ、台湾に対しては、交流を維持しながら過度な分離独立の姿勢をとらないよう説得し、中国に対しては、台湾への安易な武力行使に対しては国際的な反発が中国を窮地に追い込むことを諭し、日本の軍事面での米国支援を伝えながらも台湾の一方的な独立の動きは支持しないことを明確に示すことで自制を求めることができるという。いかに困難であっても戦争を避けなければならないという国際世論を強固にするため、政治は最後まで外交を諦めてはならないと主張している。

 研究者、ジャーナリスト、NGO活動者らによって昨年10月に発足した「平和構想提言会議」は12月15日、政府による「国家安全保障戦略」に対置する「平和構想」を提言した。
◎戦争ではなく平和の準備を ―“抑止力”で戦争は防げない―
 提言は、「日本は平和主義の道を歩みつづけるのか、それともアジア近隣諸国との対立と紛争への道に進むのか、その分岐点に立っている」とし、「日本国憲法の平和主義の原則に基づき、軍拡ではなく軍縮を進めること、緊張緩和と信頼醸成のための平和外交の展開こそが、アジア地域の平和を実現する」と主張する。そして、日本政府の戦争に繋がる政策を批判したあと、「平和のために何をすべきか――今後の課題」を具体的に提示し、議論の深化と行動を呼びかけている。また、国境を越えた市民社会の連携のためにこの提言を東アジア諸国および米国、ロシアの市民社会にも示すという。
 今年2月12日、那覇市で 「『台湾有事』を起こさせない!沖縄対話プロジェクト 第一回沖縄・台湾対話シンポジウム」が開催され、台湾側、沖縄側双方からコーディネーターが参加して意見交換が行われた。今後もさまざまなところで具体的な平和構築の活動が続くことを期待したい。
 私たちは「戦争放棄・戦力の不保持・交戦権の否認」を宣言し、全世界の国民の平和的生存権を謳う憲法を持っている。日本政府が民主主義を踏みにじる形で戦争への道を進むことが憲法の平和精神からも軍事論からも国民生活からも間違っていることを訴え、沖縄の心をしっかりと受け止めながら活動していかなければならない。

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